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ドキュメント:ある少年の物語(あとがき)

  僕は今年の九月、ワシントンの新聞社にいた。そこで起きた事件が、海軍施設の銃乱射事件だった。被害者を含め、十三人が死亡した。当初は犯人は三人いるとも言われ、ワシントン市内は隠れた犯人に恐怖を感じていた。その後単独犯だと判明すると、街は安堵に包まれた。現場には二百名近くの報道陣がいて、目の前で頭を撃ち抜かれる人を見た者や、犯人が銃撃する瞬間を目撃した者、カフェテリアのテーブルにしゃがみ込んで九死に一生を得た者もいた。事件は犯人の背景や生涯を突き止めたところで終息に向かった。

  オバマ米大統領は、今回の犯行を「卑劣な行為である」と語り、再発防止を約束した。 米国内での銃乱射事件は、今年六月にカリフォルニア州サンタモニカで五人が殺害されたほか、昨年、コロラド州の映画館で十二人が殺害される事件も起きている。コネティカット州の小学校でも昨年十二月に同様の事件が発生し、児童を含む二十六人が亡くなった。

  このような背景を受けて、昨今、銃の全面規制を求める声が高まってきてはいるが、その一方で身を守るために拳銃を購入する人も多い。六年前、南部バージニア州で三十二人が殺害される事件が起きた時には、テキサス州のある公立学校で教師に拳銃の携帯が認められた。今年四月に米議会上院で銃規制法案が審議された時にも、結果は否決に終わっている。
 
  記者の方は、このような事件が起きるたびに、アメリカ銃規制の記事とその反対派のライフル協会の記事を書いている、と語っていた。しかし、そのなかでひと際異彩を放つのがコロンバイン高校の銃乱射事件だった。この事件は、銃規制以上の何かがあった。これはいまだに人々を引きつけて止まないものだった。
 
  取材現場から戻り、色々な情報を調べてみても、全ては「容疑者は鬱状態に」「ゲームのやりすぎで現実との区別がつかない」「精神異常のサイコパス」として片付けられていた。人は理解できないことに直面すると、レッテルを貼って何とか保管し、その場から逃げようとする。だけど、それは何の意味もない。
 
  コロンバインドキュメント、というのがあった。これは警察の調査書を元に、容疑者二人の日記や詩、絵や書き物が公開されたものである。どれも英語で書かれてはいるが、難しいことは書いていない。僕は何時間もかけて、全てに目を通した。気付くとアメリカでは別の乱射事件が起きていた。
 
  日記を見て一番思ったことは、何の変哲もない、十代の日記だということだった。恋愛の話。愛の話。学校の話。悩みの話。音楽の話。将来の話。家族の話。
 
  人から見下され、それに対して何か声を上げたい、何か、この人生を変えたい、と思っている、感受性の強い子供の日記だった。僕はそれを自分と重ね合わせずにいられなかった。もしあの時、自分の周りに銃があったら、と思うと、サイコパスなんていうレッテルは貼れなかった。
 
  この事件を元にした映画がある。『エレファント』だ。出来は悪くない。カメラワークが美しい。だけど、内容はやはり偏見の域を出ない。それに、何よりDylanとEricが同性愛的側面を持ち、Dylanの方がEricに優先権を持っているように描かれている。しかし、日記では、Ericの名前はあまり出てこない。他の友達、リョウタの人物の方が、より感情を込めて語られている。
 
  これは確かに不思議なことだった。だけどよく思い出せば、クラスで避けられている子が、同じように避けられている子と一緒に、教室の隅で弁当を食べている様子があった。彼らは本当の友情には見えなかった。一人になるのが嫌で、仕方なく、という印象が強かった。Dylanも、そうやってズルズルと事件の加害者になっていった気がする。

  Dylanの日記には、よく高速道路が見えなくなっていく絵が描かれていた。その先に、彼は何を見つけたのだろう、と僕はいまでも思う。
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ドキュメント:ある少年の物語(13)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <春・一日前>


  おれは死ぬ、とツヨシに告げた時、ツヨシは大事なのはそこじゃない、と言った。ツヨシは人殺しの方を忘れるな、と言った。カズキはその時になって、自分が死ぬだけじゃ済まないことに気付いた。だけどそれはもうどうということじゃなかった。死ぬだけで済まないのなら仕方ない、と思っただけだった。

  あと一日だった。カズキはあと一日で決めなくてはならなかった。カズキは一晩中考えた。一つの行為で、自分の人生がもう終わってしまうことを。だけど、それも大したことには思えなかった。この先に続くものも、これまでと変わらず腐ってるはずだった。ナナがいればいい。カズキは思った。ナナがいる世界に行ければいい。この世はナナ以外の連中でいっぱいだ。それは耐えられない。

  カズキは頭がぐるぐる回るのに任せた。そして思った。誰が不幸になるだろう、自分のせいで? 誰がおれのせいで悲しむ羽目になるんだろう。そしてまた、自分はどれだけ不幸になるんだろう、あっちの世界で? と思った。

  あっちの世界。扉を開けて。そこにはナナがいる。でも、ナナとおれの二人だけだろうか。リョウタにも居て欲しい。リョウタがいるんなら、リョウタの彼女にだっていてほしい。そしたらナナの友達もいるべきだ。そしたら、リョウタの友達だって。それにツヨシも死ぬ。だったらツヨシの友達も。できたら親だって。

  向こうの世界でも不幸になるだろうか? そして、こっちの世界の人たちも不幸に? カズキは考えた。そうじゃない。

  カズキは、ツヨシは天才だと思った。一日前までずっと考え続け、やっと辿り着いた結論は、ツヨシの計画にぴったり当てはまっていた。ツヨシの考えは、ずっと前にここに達していたんだ。カズキはそう思った。

  カズキが気付いたことは、小さな死が人を不幸にする、ということだった。小さな死があるから、人は悲しむ。そうじゃない。戦争を見ろ。ヒトラーを見ろ。大きな死が大切なんだ。小さな死がなければ人生は楽しい。人は死ぬ、それは悲しい。病院のベッドで。でも、それは小さな死だからだ。それがなければ人生は楽しい。ヒトラーが死んだ時、彼の周りにはたくさんの死体があった。ロシアだかソ連が殺しに来たからだ。ヒトラーは他にも殺してた。大きな死だ。あれがあったし、自分の時も大きな死があったから、ヒトラーは不幸じゃなかったはずだ。一生を終える時、そこで大きな死が待っていてくれれば、不幸になることはない、幸せに、向こう側へ行ける。

  みんなも同じことだ。だったら、リョウタも、ナナも、アミも。ケンジはムカつくけど、でもかまわない。

  ツヨシは言っていた。明日はヒトラーの誕生日だ。これはきっと、偶然じゃない。

  カズキはゆっくり目を閉じた。自分のいままでの人生を思い出した。涙があふれた。苦しみは終わりだった。向こう側には幸福が待っていた。それから夢を見た。

  高速道路がずっと先まで伸びていた。終わりが見えなかった。道はひたすら真っ直ぐだった。陽の光が反射していた。


  カズキは目を覚ました。もう八時を過ぎていた。急いで着替えると、鏡越しに自分の顔が見えた。大きな鼻が、にきびに覆われていた。
  
  また別のができてる。
  
  だけど、もう構わない。


  カズキはツヨシと待ち合わせて、学校に向かった。迷彩の服は首もとでチクチクとこすれた。手に持ったバッグが重たかった。
  
  カズキは校門に向かいながら思った。自分が高速道路の先を目指しているみたいだ。このまま行ったら、その先に辿り着くんじゃないか。
  
  カズキは門を通った。何人かと目が合った。窓の外で日が出ていた。
今日は暑くなるだろう。

  カズキはそう思った。カズキは幸福だった。


  終わり。

 
-------------------------------------------------


  カズキの名前はDylan Kleboldと言った。ツヨシの名前はEric Harrisと言った。二人は1999年4月20日、アメリカ合衆国コロラド州のコロンバイン高校において、銃乱射事件を起こした。二人は教員一名、学生十二名を殺し、二十四人の重軽傷者を出したあと、図書館に入って自殺した。

ドキュメント:ある少年の物語(12)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <春・五日前>  

  
  本気なのか? とツヨシが聞いた。本気なのか? とカズキが自分自身に聞いた。年がまた変わっていた。春になっていた。カズキはずっと考えてきた。ツヨシは何度も念を押してきた。カズキはそのたびにうなずいた。

  ナナと話す機会は少し減った。それでも愛情は変わらなかった。カズキは遠くから彼女の姿を見つめた。そのたびにため息をついた。不思議なことに、自殺しようと決めてから彼女のことをもっと好きになった。頭がぼうっとして、他のことは考えたくなくなった。

「失敗だけはいやだからな」

  ツヨシは言って、何度もカズキの気持ちを確かめた。彼はあと五日、考えて決めろと言った。カズキはわかったと答え、時間が過ぎるのを待った。その間に、気持ちが揺らぐことはないと思っていた。


  ツヨシから五日待つと言われた後、カズキは夕食の席で家族と喧嘩をした。カズキの父親はカズキを叩こうとした。カズキはフォークを振り上げて壁に叩きつけた。それから自分の部屋に向かった。涙が頬に跡をつけた。

  次の日、カズキは近くの公園まで歩いていった。一人で考えたかったからだった。中では子供たちが遊んでいた。そのそばで、母親たちが世間話をしていた。カズキは自分が子供の頃、親と一緒にこの公園で遊んだことを思い出した。

  その時母親は自分の頭をずっと撫でていてくれた。汗に濡れた髪の毛を。家に帰ると夕ご飯を作って、二人でお父さんを待った。みんなでテレビを見ながら食べた。懐かしい。いまだって、変わったのはおれだけだ。おれがこうなっただけだ。こんな人間になっただけだ。

  カズキは自分に聞いた。いま、この公園で遊んでいるあの子供たちを殺せるだろうか? それと同じこと。カズキは思った、人を殺すっていうことは、子供から大人までその人の全てを殺すことじゃないか。

  カズキの心臓は痛んだ。一生懸命考えた。人を殺すこと、自分を殺すこと。あと五日後。それまでゲームのように思えてきたことが、急に確かなものに思えてきた。はっきりした現実に思えてきた。カズキは罪悪感でいっぱいになり、近くのトイレに吐きにいった。胃液がのどの奥から溢れ出た。便器の水がびしゃびしゃと音を立てた。

  おれにはできない。人を殺すことが怖いわけじゃなく、自分が人殺しになることが怖い。誰かの血を見るのは別に怖くなかった。それよりも、自分には関係ないと思っていた殺人や自殺が、自分を飲み込むのが怖かった。自分がその一部になるのが怖かった。それは井戸に滑り落ちて、一生出られないことのようだった。周りは石の壁で上には光も見えなかった。真っ暗な中をムカデの動き回る足音が聞こえる。

  カズキは底で横になっている。と思うと何かが首もとを動き回る。足が無数に生えているのがわかる。カマドウマが顔の上を飛び跳ね、チクチクとする足が口や鼻の穴入ってくる。湿った土が背中に入って、蛾の羽が脛を撫でる。底に詰まっているのは土じゃない。死んだ毛虫の千匹のかたまり。吐き気がする。カズキはさらに吐いた。

  カズキは一人で歩いた。晴れていた。学校はなかった。あっても行く気になれなかった。カズキはそのまま町が見渡せるところまで行った。空を見上げると飛行機が飛んでいた。誰かがどこかへ行くのがわかった。おれを置いて、とカズキは思った。カズキは次にツヨシのことを思った。ツヨシはおれよりかわいそうなやつだ、人の痛みがわからない。カズキはそう思った。

  カズキは次に、このまま生き続けたらどうなるか考えた。自殺をせずに。ツヨシは時間をくれた。

  カズキはそれからナナのことを考えた。これからのことを考えるとナナのことが浮かんだ。二人は一緒に暮らすんだ、と思った。カズキはナナと結婚したいと思った。そうする以外ないと思った。子供っぽいと思われても、かまわない。

  思われても?

  カズキは気付いた。

  誰に?

  周りの人間に。家族に。社会に。ゾンビたちに。

  重いため息がのどからこみ上げた。胃液のすっぱい臭気が漂った。やっぱりだ。カズキは思った。結局、あいつらに邪魔されるんだ。カズキはこの二年間、ずっと感じてきたことがもう一度自分のなかに入り込んでくるのを感じた。

  結局そうじゃないか。結局、おれはずっと苦しんでいくんだ。

  カズキは声に出して言った。幸福なんてない。幸福は、いらない。そう思ってきた。だけど、それがなきゃ生きていけない。生きるのは、一つの部屋にいること。存在とは一つの部屋にいること。死ぬことは? それは、部屋を出ること。その先にはまた別の部屋が。

  おれとナナの部屋が。


  おれは死ぬ。

無題

あと二回で、いま書いている話は終わりです。
カズキは結局どんな決意をするのか。ツヨシはどう関わってくるのか。そうして起きた事件はなんだったのか。
明日には終わるでしょう。少し明かせば、事件は1999年の春に起きました。話のなかでも、1998年の冬が終わって春に入ります。事件の五日前です。アップは二時間後ぐらい。

ドキュメント:ある少年の物語(11)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <一年前・冬>後


  カズキは風邪を引いていた。頭痛がしていた。視界が霞んでいた。外は寒い日が続いていた。

「カズキくん」
  
  そばを通り過ぎる時にナナが声を掛けてきた。カズキは笑おうとしながら答えた。ナナはその場に立ち止まった。
  
  顔を上げてナナの顔を見ようとした時、カズキはケンジの姿を見つけた。ケンジは戸口に立ってこっちを見ていた。彼の周りには他にもクラスメイトたちがいた。ケンジは彼らに向かって笑いかけ、カズキの方を指差した。誰もがにやにやしながらこっちを見ていた。唇の端に尖った歯がのぞいた。
  
  ナナが話していても、カズキはまともに彼女の方を見れなかった。ケンジたちの笑い声が気になった。恥ずかしくて喉が渇いた。

「カズキくん?」

  ナナは首をかしげて聞いた。カズキは耐えきれなかった。カズキはその場を立ち去った。ナナが驚いたようにこっちを見ていた。ケンジたちは吹き出すように笑った。


  夜、カズキは寝ずにいた。頭が痛かった。鼻がつまった。だけど、それは大したことじゃなかった。カズキにとって、ナナのことしか考えられなかった。ナナの驚いた顔、悲しそうな顔。
  
  おれはなんであんな風に、、、。カズキは悔やんだ。悲しませた、と思った。そう思うとやり切れなかった。
  
  電話しようか。でももう寝てるだろう。謝る方が良いのか。明日直接、、、。
  
  どうせまたあいつらが邪魔するだろう。カズキは思って頭痛が増すのを感じた。いつだってどこでだって、あいつらが邪魔をする、人間たちが邪魔をする。
  
  どうして? とカズキは聞いた。誰かに向かって一人で聞いた。どうしてそっとしておいてくれない? 少しぐらい良い思いをしたっていいじゃないか? どうしていちいち関わってくるんだ? どうして?
  
  自分は呪われている、一生このままだ。結婚、就職、受験、彼女。全てが邪魔されるんだ。このままなんだ。カズキは泣いた。頭が痛かった。ナナのもとから去った方がいいのかもしれないと思った。不公平だと思った。
  
  しばらく経ってからカズキは泣き止んだ。あることに思い当った。


  次の日カズキはツヨシに会った。土曜日で学校はなかった。二人はツヨシの家でゲームをしていた。
  
  カズキの風邪はひどくなっていた。頭がぼんやりとしていた。カズキは「やろう」と言った。ツヨシが画面を見ながら「なにを?」と聞き返した。

「自殺」

  カズキは答えた。それから、「人殺し」と付け加えた。
プロフィール

FC2USER586252FFA

Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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