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ルポ:ニュージーランドの果樹園労働について(補遺)



「落ち葉に埋もれたキーウィフルーツの列は先が見えなくなるまで果てしなく続いていた」(3)より


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「コリーの目を盗んで食べるキーウィは、生の大根のように固かった」(8)より


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「仕事終わりにふと目に入った自分の手首や車の排気管までが、刈らなければいけないもののように錯覚してくる。六人部屋の窮屈な二段ベッドの上で同じような内容の夢を見ることもよくあった」(6)より


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「翌朝のために食べ残しをとっておいたのに、ねずみに食べられてしまったこともあった」(5)より
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ルポ:ニュージーランドの果樹園労働について(9)

  ケリケリを去る日の朝、僕は初めに訪れたスーパーマーケットのそばから長距離バスに乗った。それは海岸沿いを通ってオークランドへ向かうバスだった。乗りこんで振り返ると、靴に浸み込んでくる水滴やむせるような枝の匂いが、懐かしく湧き上がってきた。自分で作った夕飯のポテト料理の味、できそこないのキーウィを蹴り飛ばす感覚も、同じようにこみ上げてきた。その感覚は今でも思い出す。東京の街を歩いている時でも、何かふとした拍子に。


  僕はケリケリで働いていた。あの町では、働いた分だけがそのまま返ってきた。一時間で一三・五ドル、それはずっと変わらなかった。どれだけ辛くても、それ以上にもそれ以下にもならなかった。大金が欲しければその分働くしかなかった。それは単純で、素朴な生き方だった。


  そうやって、僕は八六三一キロ離れた町のことを思う。人々は相変わらずそこで働いている。彼らは汗を流して食い扶持を稼いでいる。文句を言いながら、キーウィを刈り取っている。僕はいま、それが妙に懐かしい。もう二度と戻ることはないだろう。


終わり

ルポ:ニュージーランドの果樹園労働について(8)

仕事も終わりに近付いた頃、一度、チェーンソーで切り落とした枝が、腕を直撃して大きなあざを作ったことがある。その時僕らは、刈り取って集めた枝を、走っているトラクターに積み込む作業をしていた。その頃になると誰もがどこかに傷を負っていた。コリーでさえ、千切れたワイヤーが鼻の頭を貫通するという怪我をしていた。連日の疲労がたまるのにつれて僕らの口数も少なくなった。のどの渇きで頭がいっぱいになった。水といってはホステルから持って来た分しかない。地面に落ちたキーウィフルーツが思わず目に入る。コリーの目を盗んで食べるキーウィは、生の大根のように固かった。何の味もしなかった。
 

娯楽と呼べるものはほとんどなかったけど、日曜日になれば、僕らは例のセダンで遠出をした。ケリケリはニュージーランド最北端のケープレンガに近かったから、その灯台まで辿り着いてインド洋と太平洋の境目がずっと先まで伸びているのを眺めることができた。視線を下に向けると、アシカが浜辺で寝そべっていた。近くの看板には「東京まで八六三一キロ」と書いてあった。
 

やがて六週間が過ぎ、遂に最後の仕事を終えた時、僕らは何の実感も持てずに、ただぼんやりと、枝一つない果樹園を眺めて乾杯した。車に乗り込む時には、コリーが湿った軍手を脱いで、固い握手をし、「よくやったな」と言ってくれた。マイクは次の仕事までまた残っていくつもりで、三日と経たないうちにホステルにはまた新しい労働者たちがやってきた。この町で、それは一つの季節の終わりを意味していた。

ルポ:ニュージーランドの果樹園労働について(7)

  この調子で六週間、仕事は続いた。辞める時は前日か当日に告げれば良かったから人の出入りは激しかった。だけど辞めるからと言って、いつもの叱咤がされることはなかった。来る者は拒まず、去る者は追わず、というのが、この職場のスタイルだった。


 だからあらゆる人間がいた。アイルランド人、南アフリカ人、ドイツ人、日本人、イギリス人、中国人、マオリ。何故だか常に引き笑いをやめられない男や歯が黒く腐った男、チェーンソーでひざを切り裂いた男、麻薬常習者の男。彼らはFワードやCワードを大声で言い交わしながら、旅行や週末、日々の食事のために働いた。


 ケリケリはマオリ語で「掘って掘って掘り続ける」と言う意味だ。僕らは六週間、刈って刈って刈り続けた。マオリ族に言わせると、こういう時の合言葉は「Cut your neck off」だ。それはつまり、「首から上は切り取ってしまえ」ということだった。この言葉は「Otherwise, put your head into boiling water(じゃなきゃ、熱湯に頭を突っ込め)」と続いた。結局後にも先にも、労働が待っていた。

ルポ:ニュージーランドの果樹園労働について(6)

 初めの一二週間は同じ作業がひたすら続いた。ホステルに戻ればペンを握ることもできなかった。時間に追われながら何十時間も枝を刈り続けていくと、仕事終わりにふと目に入った自分の手首や車の排気管までが、刈らなければいけないもののように錯覚してくる。六人部屋の窮屈な二段ベッドの上で同じような内容の夢を見ることもよくあった。仕事が始まって三日経ったところで、イーグルはホステルの部屋から出てこなくなった。カイとジョンは「キーウィの枝なんかより人生にはもっと大切なことがある」と言い残して、荷物と一緒に姿を消した。
 

  しかしある程度日数が経過すると作業にも変化があらわれた。ロープを握らない日も出てくるようになった。僕と祐二とマイクは一緒になって喜んだ。ロープは、油の差され具合、錆び、古さによって切れ味に大きな差があり、かなり扱いづらかったからだ。結局二三日後にはまたそれを手にすることになったけど、この期間は束の間の休息だった。足で落ち葉を片付けるだけで終わる日もあった。そんな時、僕は祐二と日本での生活を話したりマイクとイギリスのロックバンドについて話したりした。それでもコリーから叱られることはなかった。落ち葉を蹴って無駄話をしながら地面に四つ葉のクローバーを探している時、これがプルーニングと同じ時給なんだと気付いて、急に馬鹿馬鹿しく思えた。
プロフィール

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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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