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ドキュメント:ある少年の物語(2)

(必ずまえがきから読んでください)  


  <二年前・春>後


  体育の時間、カズキはコートの隅に立っていた。誰もボールを寄こさなかった。リョウタが時々近寄って声を掛けた。カズキはいい奴だ、と思った。絶対大切な友達だ。これからもずっとそうだろう。カズキは次にツヨシのことを思った。ツヨシは別のクラスで、でもよく一緒に放課後を過ごした。
  
  ツヨシは気も合うし、一緒にいて楽しい。でも親友ってわけじゃない。一緒にいるってだけだ。心のつながりはない。それはリョウタとの間だけだ。多分、リョウタも同じだ。
  
  カズキはそう考えていた。それから急に腹痛を感じた。腸がきりきりと痛んで、下腹が重くなった。冷や汗が湧いた。こぶしが固くなった。どうしよう、こんな時に、女子だっているのに。カズキは少し屈んで我慢した。でも無理だった。こっそり抜け出して、トイレまで行った。誰にも気付かれなかった。


  戻ってみると、自分の他にはもう誰もいなかった。コートに一人きりだった。みんな戻ったのか、とカズキは思った。おれをほっといて。別にいいさ。レベルが違うんだから、どうせ。おれは。関係ない。大事なのは生きること、存在することだ。
  
  教室に近付いた時、カズキはふと、先生が扉を開けたり閉じたりする様子を思い出した。そしてはっと気付いた。扉だ、とカズキは呟いた。扉だ。部屋だ。生きるって。
  
  カズキは一度深呼吸をして、頭の中で繰り返した。生きるってことは、部屋のなかにいるってことだ。死ぬってことは、扉を開けてそこから出てくことだ。出るか入るか、それだけの話なんだ。生きるっていうのはそういうことなんだ。生まれたら部屋。死んだら外。いや、外に出たら死ぬ。扉一枚の差。閉じて開いて。それだけ。生きるのは部屋のなかにいること。死ぬのは出てくこと。どこか、外の世界へ。それだけ。それが真理なんだ。


  カズキはざまあみろ、と呟いて教室に入った。笑い声は起こらなかった。休み時間で、誰も気付かなかった。いいさ、とカズキは思った。お前らゾンビにはわかんない。扉も部屋も。ざまあみろ。
  
  席に着くと、カズキはバッグを開いた。リョウタと一緒にジュースを買いに行くつもりだった。リョウタは近くにはいなかった。何人かが自分の方を見ていた。カズキは無視した。ざまあみろ、とまた呟いた。それは誰にも聞こえないぐらいの声だった。


  財布を取り出してから、カズキは中身がなくなっているのに気付いた。札と硬貨が一枚も残っていなかった。昨日見た時は、五千円以上は入ってたのに。なんでだ? リョウタが使ったのか? いや、あり得ない。
  
  カズキはまたひそひそ声を聞いた。振り返らなかった。笑い声も聞こえていた。あいつらか、とカズキは思った。他にも、お土産で父親からもらったジッポのライターがなくなっていた。リョウタと遊んだおもちゃのナイフもなかった。
  
  ひそひそ声が、ざまあみろと言っているように聞こえた。カズキは財布を持って席を立った。何事もないふりをした。何人かが声を上げて笑った。
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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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