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ドキュメント:ある少年の物語(4)

(必ずまえがきから読んでください)  


  <二年前・早秋>


  もうずっとアミのことを考えている。二人きりで過ごす時間のことを。握った手の感触を。髪の匂いを、肌の温かさを。

  まだ一度も話したことはなかった。カズキにとって、それは大切な意味を持っていた。あの連中とは違うんだ、とカズキは思っていた。手当たり次第に声を掛けるようなマネはしないんだ。

  カズキからすると、キスやセックスは汚いものだった。大切なのは肉体じゃなく、精神だ。おれはそれを知っている。それが生きるってことだ。おれもやっと生きていけるんだ。

  カズキは教室で、家で、下校途中で、ずっとそう考えていた。


  昼食を食べている時、ツヨシは退屈だ、と言った。ツヨシはよく落書きをしていたけど、どれも戦いの絵ばかりだった。ツヨシは必ずそれを平面体で描いた。カズキはどうやってアミに話し掛けようか、そればかり考えていた。

  一言ぐらい、言葉を交わしたかった。その時のことを想像するだけで、カズキの手は震えた。そうして、幸せな気分が頭を覆った。


  そんな中、ある授業終わりに、カズキが一人で廊下を歩いていると、角のところから小さな足音が聞こえた。カズキはそれがアミの足音だと気付いた。アミは戸口のところに姿を現して、こっちへ歩いてきた。カズキは心臓が高鳴るのを感じた。汗が指の間にたまった。

  今だ、今しかない。話し掛けなきゃ。カズキは呟いた。でも無視されたら? どうする? 逃げられたら? 話したことなんてないんだから。

  いや、でも、リョウタが言ってたじゃないか。向こうだっておれのこと。そうだ。アミなら、おれのこともわかってくれるはずだ。おれらなら。

「ねえ」

  カズキは声を振り絞って言った。思ったよりずっと大きな声が出た。開いた戸口から、クラスメイトがこっちを見ていた。

「ねえ、あの、元気?」
 
  カズキはそのままの声で言った。教室でささやきが漏れた。カズキは息を切らして言葉を待った。アミは見知らぬ人を見るような目で、足早にその場から立ち去って行った。クラスメイトたちはその様子を見て大笑いした。カズキは一人で立っていた。笑い声が耳に響いた。リョウタが困ったように、カズキの方を見ていた。


  カズキは一人で部屋にこもっていた。母親が何度か夕飯だと声を掛けた。カズキは答えなかった。一人で考えていた。自分が惨めさと憐みの塊だと。なぜこんな目に合うのかわからなかった。神様が見てるなら、教えてほしかった。どうしてなのか。助けた人は自分を見捨て、望んだ人は自分を拒絶する。
 
  おれはもう考えすぎた。頭が痛い。ぐちゃぐちゃだ。一人になりたい。どこか遠くへ逃げたい。一人きりで。おれだけで。誰もいらない。
 
  カズキはその夜、ずっと目を覚ましていた。空を見上げて、町を見渡していた。何もなかった。どこにも、行くところはなかった。
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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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