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ドキュメント:ある少年の物語(6)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <二年前・早冬>
  

  おまえはこれからどうするつもりなんだ? 部屋にこもってゲームしてたって金は稼げないんだぞ。そろそろ自分のことちゃんと考えろ。
 
  カズキの父親は言った。カズキは黙って聞いていた。母親は洗い物をしながら、同じように「早く何になりたいかぐらい決めなさい」と言った。カズキはやっぱり、黙って聞いていた。
 

  二人は一時間近く、カズキに向かって話していた。内容はすべてカズキの将来のことだった。大学に行くのか、働くのか。何になりたいのか、好きなことはあるのか。ちゃんと考えているのか、いないのか。カズキは途中、何度か父親に向かってしゃべりかけたけど、父親はいつもそれを遮った。母親は相変わらずそんな父親の肩をもった。母親はよく、私たちのことも考えてね、と言った。
 

  カズキは子供の頃から父親が好きだった。憧れていた。腕は太く、声は低く。言葉は強くて、心は優しくて。それなのに、最近はうまくいかなかった。父親も学校の連中と変わらなく思えてきた。いや、そうじゃない。父さんだって、昔はあのゾンビ連中みたいな奴らだったのかもしれない。そうやって、おれみたいな奴をからかってたんだ。だから最近、おれのことを馬鹿にしたような目で見るんだ。
 

  カズキは夜になって、少し外を出歩いた。そうしてツヨシの言っていたことを考えた。ツヨシは、「おれは世界一の独裁者になってやる」と言っていた。ツヨシらしい考えだった。子供っぽくてくだらない。でもはっきりしてる。ちゃんと自分の考えを持ってる。
 
  冷たい風に当たりながら歩いていくと、車が数台すれ違った。カズキは車のライトから目をそらした。まぶしくて頭が痛くなった。
 
  ツヨシの方がよっぽど父親に向いてるじゃないか。あんなにはっきりした考えを持って、ゾンビでもなくて。それにおれを大切に思ってくれてる。父さんも母さんも、心のなかでおれを気味悪いと思ってる。嫌ってる! ツヨシの方がずっと、親にふさわしいじゃないか!
 

  カズキはやがて、昔よく遊んだ公園に行き当たり、そこから折り返して自宅に向かった。雲が多く、星や月は見えなかった。段々と小雨が降ってきて、髪や寝間着を濡らし始めた。
 
  将来のことだけじゃない。好きな子のことも、愛がなんなのかも、おれはわかってない。知らないんだ。知らなすぎるんだ。知らないことが多すぎるんだ。考えて理解しても、何も知ってはいない。それがおれなんだ。これは罰だ! 知らないことが多すぎる! 知らないことにはもう飽きた! おれだって、歌や小説でじゃなく、自分自身で知りたい。自分で感じたい。ゾンビはそれをやってるじゃないか。こんなことは不公平だ。
 
  まただ、とカズキはうんざりした。また同じようなことを考えてる。ここ最近ずっと、こんなことばかり考えてる。
 

  自由になるには。死ぬしかない。カズキは、死ぬのは苦痛だろう、と思った。死ねばこんなことは終わりだ。でも死ぬのは怖い。死ぬのは苦しいだろう、きっと。どうしたって。でも自由にはなれる。こんな生活は終わらせられる。おれが死んだら、学校の奴らは驚くだろう。リョウタやアミはきっとショックを受けるだろう。ゾンビたちだって、飯も食えなくなるだろう。そうだ、遺書を書いて、ゾンビやアミやリョウタのせいだと言ってやろう。あと父さんと母さんも。そうしたら、あいつら泣いて謝るだろう。おれのこと、ずっと忘れられないだろう。アミなんか、毎日お参りに来てくれるんじゃないか。リョウタと一緒に、泣きながら。大きな花を持って。
 

  雨は強くなる一方だった。カズキの体は冷えて、鳥肌が立った。家に帰ると鍵が掛かっていた。両親とも、カズキが出掛けたことを知らなかった。
 
  カズキは震えながらドアを叩いた。誰も答えなかった。カズキは何度も叩いた。誰も答えなかった。雨はどんどん強くなっていった。父さん! 母さん! カズキは叫んだ。カズキは一人きりだった。
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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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