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ドキュメント:ある少年の物語(7)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <二年前・冬>


  突然だった。稲妻みたいだった。馬鹿馬鹿しいけど本当だ。稲妻だ。おれは息もできなくなるかと思った。最初は信じられなかった! 何度も後ろを振り向いた! でもおれだった! 彼女はおれに手を振ってた! おれに! このおれに! だって、周りは誰もいなかったんだから! 向こうの名前は知ってる。話したことだってある。そうだ、これが全てだ。最高だ。こんな気持ちになるなんて! このおれが!
  
  ナナが手を振った。カズキは通りの向こう側にいて、家に帰る途中だった。ツヨシは遅れると言っていた。理由は先生に呼び出されたからだった。ツヨシのノートが理科室で見つかり、そこに書かれていた落書きがバレたのだ。そこにはリョウタを撃ち殺す絵が描かれていた。その日、ツヨシは結局カズキと一緒には帰らなかった。
  
  カズキは最初、自分に手を振られたとは思わなかった。ナナとは二三言、体育祭の時に話したことがあったが、他クラスでもあったからそれきりだった。しかし。周りに人はおらず、ナナは自分の方を真っ直ぐ見つめていた。カズキは手を振り返しはしなかったけど、心臓が脈打ち、汗が湧くのを感じた。
  
  これが本当に好きになるって意味だ。カズキは空を見上げながら思った。雲ひとつない、水色の空だった。いままでが単なるうそっぱちだったんだ。おれはわかってなかったんだ。彼女はおれに手を振ったんだ! 信じられない! でも考えてみたら、どんな奴だって結婚して子供も産んでる。そう考えたら、誰かおれを好きになってくれる人がいたっておかしくない。そうに決まってる。ああ、それにしても! その相手がナナだなんて! 彼女はもの静かだけど、でもとても綺麗だ。それにやさしい! いままで会ったこともないぐらいに! 彼女に比べたら、他の女たちなんてゴミだ!
 
  
  カズキはツヨシのことを考えもせず、そのまま家に着いた。両親が学校のこととテストの結果について聞いてきたけど、カズキは何も返事をしなかった。家族との会話はここ最近、ほとんど存在しなかった。
  
  存在だ。カズキは部屋に入った。存在だ。昔はそればかり気にしてた。いまもそうだけど、でもあの頃のおれが、いまは本当の愛を知ったんだ! 愛は二人のものだ。独りよがりじゃだめなんだ。ああ、彼女に愛されるためならなんでもできる! 彼女との愛を育てていくためなら! 他の誰だって必要ない! 親もリョウタもツヨシも、みんないなくなってかまわない! 
  
  でも、どうだろう、もし? カズキはそう思ってふと顔を上げた。彼女が、もし何か事情があって、おれのことを愛してくれなかったら? そんなこと、考えるのもいやだけど、でもあり得ないこととは言えない。そうしたら。
  
  間違いない。簡単だ。剃刀だ。カズキは引き出しを開けて剃刀を取り出した。これで手首を切ればいい。血でびしょ濡れになって、手首をぶらさげて、高速道路に飛び出して轢き殺される。それしかないだろう。
  
  どうせ轢き殺されるなら真っ赤なスポーツカーがいい。ものすごいスピードの。それに飛ばされて、ずっと先まで飛んでいってしまおう。あの、高速道路の先の方までだ。


  カズキはナナのことを思いながらベッドに入った。ナナの白く細い指が開き、その小さな手が自分に向かって振られる。ナナはにこっと笑っている。
  
  ちょっと前は地獄だったのに。カズキは眠ろうとしたまま笑った。いまじゃ天国だ。ナナ一人のおかげで。不思議だ。
  
  ここまで考えて、カズキはふと思いついた。何かに頭を叩かれた気分だった。そうだ。天国も地獄も、存在するんだ。カズキは冴え始めた頭で考えた。

  それはつまり、この世に存在することなんだ。天国も地獄も、全部この世で起きていることなんだ。死後の世界じゃない。単に気持ちの問題だ。死後とは関係ない。じゃなきゃ、そもそも天国も地獄もあるとは言い切れないはずじゃないか! 死人に口なしだ! 
  
  いまは天国だ。いつか地獄も来る。どうして逃げる? いいや、難しいことじゃない。ここから去ればいい。それだけだ! それだけじゃないか。

  カズキは目を開けて起き上がった。死ねばいいんだ。死んでしまったら、地獄行きも天国行きもない。死んだらただそれっきりだ! それっきりだ! 
  
  確かに幸福じゃあないだろう。死ぬことは。でもそんなこと、なんでもないじゃないか。幸福なんて、どうせ運命がめちゃくちゃにしてしまう。そんなもの、あのゾンビの奴らぐらいにしか訪れない。訪れたってそれっきりだ。なんの意味もない。生きるのは部屋にいること。死ぬのは部屋から出ていくこと。扉を開けて。そしたら全部がすっきりだ。


  カズキは立ち上がり、歩き回り、それからまたベッドに戻った。そうして考えた。それでもやっぱり、おれはナナが好きだ。いや、愛してる。

  愛してる。

  愛してる。

  おれが。ナナを。愛してる。
  
  まぶたが重くなり、カズキは眠った。
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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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