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ドキュメント:ある少年の物語(9)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <一年前・夏>
  

  ツヨシが女の子と歩いていた。カズキはトイレの前でその姿を見つけた。ツヨシは目をつぶるようにして笑い、女の子の方を見た。カズキはその女の子が誰なのかわからなかった。
  
  昔だったらなぁ、と思ってカズキは微笑んだ。おれも嫉妬したかもしれないな。リョウタにやったみたいに。でも今は違う。おれにだって、彼女はいる。彼女ではなくても、同じことだ。おれにも愛する人がいる。
  
  カズキの周りの全員が幸福だった。カズキにはそう見えた。幸福である必要はなくても、カズキは幸福だった。リョウタとも仲直りしよう。カズキはそう思っていた。
  
「またね、カズキくん」
  
  ナナは門のところでカズキに手を振った。カズキも手を振り返した。周りの視線を感じたけど、何の問題もなかった。物ごとは結局単純なんだ、とカズキは思った。
  
  それでも、カズキの頭はナナ以外のことも考えるようになった。それは最近、特によく起こることだった。数学の授業中もそのことばかり考えていて、先生に怒鳴られた。先生はカズキの机を蹴り、クラスメイトたちが笑った。
  
  カズキの頭をとらえていたのは、ツヨシが言ったことだった。それは、自殺すること、人を殺すことだった。ツヨシはきっと、やろうと思えば本当にやるだろう。カズキはひとり言を言った。おれがやろうと言えば、ツヨシはうなずくだけだ。そうすれば、、、。
  
  カズキはぞっとすると同時に感動した。それは、全てが自分にかかっているように思えたからだった。自殺してしまおうと思ったことは今まで何度でもあった。自分を悲しがる人々を見たかったからだ。でも人殺しは違う。それは人の命を支配すること、人の生を支配することだった。

  こんなちっぽけなおれがそんなことを。カズキは思った。だけど、できないことではなかった。
  
  そうしたら、リョウタも殺すんだろう、とカズキは考えた。リョウタとはまた友達に戻りたかった。でも。カズキは思った。あいつを殺したらどんな気持ちになるだろう。この考えは毒のようだった。リョウタだけじゃなく、あのゾンビの連中も。その時の自分の気持ちを考えると神経がたかぶった。あり得ない話だからこそ魅力的だった。カズキは日に日に空想するようになった。人を殺す瞬間を。誰にしようか考えると、それだけで心臓が脈打った。カズキは毎日相手を変えた。アミや両親、ツヨシが相手になった。誰にするのか決める必要はなかった。だからこそ楽しかった。おびえる顔が自分に向けられる。自分はその死を支配する。そうしてその生も支配する。相手にとっては、自分こそが世界で最も重要な存在になる。神様よりももっと。カズキはそうやって頭がぼうっとするのに任せた。


  カズキは夜、夢を見た。また高速道路の夢だった。いつものように先の方は見えなかった。カズキはそこをナナと一緒に歩いていた。二人は手を繋いでいた。二人はそのまま歩き続け、ある牧場に辿り着いた。そこには羊や馬、藁や干し草があった。カズキはナナとそこへ寝転がった。羊が鳴きながら顔を舐めた。ナナの手を強く握った。ナナも同じようにした。

「このままここに住もう」
 
  カズキは言った。ナナはうなずいた。二人は小屋を建てて暮らし始めた。道路はどこかに消えていた。二人の他は誰もいなかった。

  カズキはそういう夢を見た。一度目覚めてから、また眠った。夢の続きは見れなかった。カズキはそれから遅れて学校に行った。昼前の授業で、数学の先生にまた怒鳴られた。カズキはそれでも幸福だった。
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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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