FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ドキュメント:ある少年の物語(10)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <一年前・冬>前


「髪切ったの?」
  
  カズキが声を振り絞って聞くと、ナナは振り向いた。
  
「え?」
  
「髪切った?」
  
「ああ、これ? うん、そうなの」
  
「似合ってるね」
  
  カズキは言い、しっかりとナナの顔を見た。ナナは「ありがとう」と笑顔で言った。
  
  ナナは手を振って歩いていった。カズキはその場に立ち、ぼうっとしていた。涙が出るかと思った。顔が熱くなっていった。急いでその場を離れようとした。
  
「待てよ」
  
  顔を上げると、ケンジが立っていた。カズキをからかううちの一人だった。カズキがゾンビと呼ぶうちの一人だった。ケンジはカズキに向かい、「ナナのこと好きなのか?」と聞いた。カズキは何も答えず、通り過ぎようとした。ケンジは後ろから叫んだ。ケンジはカズキに向かって「高望みしてんじゃねえよ」と言った。カズキは耳を塞ぎたかった。ケンジの笑い声が響いた。
  
  心臓がどきどきと鳴った。高望みじゃない。おまえには関係ない。強烈な無気力が急にカズキの中に湧き起こった。ケンジはまだ何か言ってきた。周りの生徒たちが笑い始めた。カズキは足早に立ち去った。馬鹿にするな、と言った。誰にも聞こえなかった。

  
  ナナの気持ちはわかってる、まさかケンジと付き合ってるわけじゃない。カズキは自分に言い聞かせた。外は寒かった。風が鼻に当たり、目を潤ませた。吐く息は真っ白だった。

  あんな奴が、ナナみたいな子と付き合うわけがない。ナナが断るに決まってる。あんながさつで馬鹿な奴。
  
  カズキはツヨシに会い、ナナのことを話した。ツヨシは答えなかった。次にケンジのことを話した。急にツヨシは態度を変えた。

「邪魔されのか、そいつに?」
  
  ツヨシは目を見開いて聞き、カズキはそうだよ、と答えた。

「運動部か?」
  
  うん。カズキはうなずいた。確かにあいつは邪魔したんだ、おれとナナの愛を。
  
  そんな奴、一緒に殺してやればいいんだ。覚えてるだろ? ツヨシは聞いて、カズキの答えを待った。目が暗く、真剣だった。カズキは怖くなり、ただぼんやりとうなずいた。


  邪魔か、とカズキは思った。風が冷たかった。悪くないな、本当に。おれとナナ。二人の間は障害ばかりだ。強い風が吹くたびにマフラーが揺れた。
  
  でも乗り越えるんだ、おれたちは。そう思うと力が湧いた。カズキは嬉しくなった。それと同時に不安にもなった。このまま一生邪魔が入ったら、本当に大丈夫なんだろうか。おれとナナは?
  
  ナナの手を振る姿が浮かんだ。一年近く経っても、その姿は全く色あせなかった。ケンジにそれを壊されるのは耐えられなかった。次に失恋が来たら耐えられない、ナナを失うのは耐えられない、とカズキは思った。
  
  
  だけど、人がいる限り邪魔はされるはずだ。みんなわらわら固まって、あらゆるものを壊していく。目についたものを全部。ちょっと気に食わないと。ちょっとでもゾンビらしくないと。ゾンビが食い尽くしていく。
  
  カズキはくしゃみをした。熱があるみたいだった。それでも気にしなかった。カズキは、でもいつかは自由になれるはずだ、と思った。きっと。おれとナナの愛なら。例えば原爆。原爆が落ちて、キノコ雲が巻き起こって、その下でおれとナナは二人きりになる。周りは誰もいない。誰もが溶けてしまう。
  
  おれとナナがいるのは雲の下じゃなくて、次の空白なんだ。次の世界の中でだ。二人きりで。カズキは思った。
  
  好きなんだ。好きなんだ。好きなんだ。哲学も言葉も想念も思考も真実も魂も光も知識も存在も死も生も愛も、全てがおれらのものだ。カズキはもっと強く思った。
  
  そしておれはいま頭痛がしてる。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

FC2USER586252FFA

Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。