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ドキュメント:ある少年の物語(12)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <春・五日前>  

  
  本気なのか? とツヨシが聞いた。本気なのか? とカズキが自分自身に聞いた。年がまた変わっていた。春になっていた。カズキはずっと考えてきた。ツヨシは何度も念を押してきた。カズキはそのたびにうなずいた。

  ナナと話す機会は少し減った。それでも愛情は変わらなかった。カズキは遠くから彼女の姿を見つめた。そのたびにため息をついた。不思議なことに、自殺しようと決めてから彼女のことをもっと好きになった。頭がぼうっとして、他のことは考えたくなくなった。

「失敗だけはいやだからな」

  ツヨシは言って、何度もカズキの気持ちを確かめた。彼はあと五日、考えて決めろと言った。カズキはわかったと答え、時間が過ぎるのを待った。その間に、気持ちが揺らぐことはないと思っていた。


  ツヨシから五日待つと言われた後、カズキは夕食の席で家族と喧嘩をした。カズキの父親はカズキを叩こうとした。カズキはフォークを振り上げて壁に叩きつけた。それから自分の部屋に向かった。涙が頬に跡をつけた。

  次の日、カズキは近くの公園まで歩いていった。一人で考えたかったからだった。中では子供たちが遊んでいた。そのそばで、母親たちが世間話をしていた。カズキは自分が子供の頃、親と一緒にこの公園で遊んだことを思い出した。

  その時母親は自分の頭をずっと撫でていてくれた。汗に濡れた髪の毛を。家に帰ると夕ご飯を作って、二人でお父さんを待った。みんなでテレビを見ながら食べた。懐かしい。いまだって、変わったのはおれだけだ。おれがこうなっただけだ。こんな人間になっただけだ。

  カズキは自分に聞いた。いま、この公園で遊んでいるあの子供たちを殺せるだろうか? それと同じこと。カズキは思った、人を殺すっていうことは、子供から大人までその人の全てを殺すことじゃないか。

  カズキの心臓は痛んだ。一生懸命考えた。人を殺すこと、自分を殺すこと。あと五日後。それまでゲームのように思えてきたことが、急に確かなものに思えてきた。はっきりした現実に思えてきた。カズキは罪悪感でいっぱいになり、近くのトイレに吐きにいった。胃液がのどの奥から溢れ出た。便器の水がびしゃびしゃと音を立てた。

  おれにはできない。人を殺すことが怖いわけじゃなく、自分が人殺しになることが怖い。誰かの血を見るのは別に怖くなかった。それよりも、自分には関係ないと思っていた殺人や自殺が、自分を飲み込むのが怖かった。自分がその一部になるのが怖かった。それは井戸に滑り落ちて、一生出られないことのようだった。周りは石の壁で上には光も見えなかった。真っ暗な中をムカデの動き回る足音が聞こえる。

  カズキは底で横になっている。と思うと何かが首もとを動き回る。足が無数に生えているのがわかる。カマドウマが顔の上を飛び跳ね、チクチクとする足が口や鼻の穴入ってくる。湿った土が背中に入って、蛾の羽が脛を撫でる。底に詰まっているのは土じゃない。死んだ毛虫の千匹のかたまり。吐き気がする。カズキはさらに吐いた。

  カズキは一人で歩いた。晴れていた。学校はなかった。あっても行く気になれなかった。カズキはそのまま町が見渡せるところまで行った。空を見上げると飛行機が飛んでいた。誰かがどこかへ行くのがわかった。おれを置いて、とカズキは思った。カズキは次にツヨシのことを思った。ツヨシはおれよりかわいそうなやつだ、人の痛みがわからない。カズキはそう思った。

  カズキは次に、このまま生き続けたらどうなるか考えた。自殺をせずに。ツヨシは時間をくれた。

  カズキはそれからナナのことを考えた。これからのことを考えるとナナのことが浮かんだ。二人は一緒に暮らすんだ、と思った。カズキはナナと結婚したいと思った。そうする以外ないと思った。子供っぽいと思われても、かまわない。

  思われても?

  カズキは気付いた。

  誰に?

  周りの人間に。家族に。社会に。ゾンビたちに。

  重いため息がのどからこみ上げた。胃液のすっぱい臭気が漂った。やっぱりだ。カズキは思った。結局、あいつらに邪魔されるんだ。カズキはこの二年間、ずっと感じてきたことがもう一度自分のなかに入り込んでくるのを感じた。

  結局そうじゃないか。結局、おれはずっと苦しんでいくんだ。

  カズキは声に出して言った。幸福なんてない。幸福は、いらない。そう思ってきた。だけど、それがなきゃ生きていけない。生きるのは、一つの部屋にいること。存在とは一つの部屋にいること。死ぬことは? それは、部屋を出ること。その先にはまた別の部屋が。

  おれとナナの部屋が。


  おれは死ぬ。
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プロフィール

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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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