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ドキュメント:ある少年の物語(13)

(必ずまえがきから読んでください。これは小説ではありません)  


  <春・一日前>


  おれは死ぬ、とツヨシに告げた時、ツヨシは大事なのはそこじゃない、と言った。ツヨシは人殺しの方を忘れるな、と言った。カズキはその時になって、自分が死ぬだけじゃ済まないことに気付いた。だけどそれはもうどうということじゃなかった。死ぬだけで済まないのなら仕方ない、と思っただけだった。

  あと一日だった。カズキはあと一日で決めなくてはならなかった。カズキは一晩中考えた。一つの行為で、自分の人生がもう終わってしまうことを。だけど、それも大したことには思えなかった。この先に続くものも、これまでと変わらず腐ってるはずだった。ナナがいればいい。カズキは思った。ナナがいる世界に行ければいい。この世はナナ以外の連中でいっぱいだ。それは耐えられない。

  カズキは頭がぐるぐる回るのに任せた。そして思った。誰が不幸になるだろう、自分のせいで? 誰がおれのせいで悲しむ羽目になるんだろう。そしてまた、自分はどれだけ不幸になるんだろう、あっちの世界で? と思った。

  あっちの世界。扉を開けて。そこにはナナがいる。でも、ナナとおれの二人だけだろうか。リョウタにも居て欲しい。リョウタがいるんなら、リョウタの彼女にだっていてほしい。そしたらナナの友達もいるべきだ。そしたら、リョウタの友達だって。それにツヨシも死ぬ。だったらツヨシの友達も。できたら親だって。

  向こうの世界でも不幸になるだろうか? そして、こっちの世界の人たちも不幸に? カズキは考えた。そうじゃない。

  カズキは、ツヨシは天才だと思った。一日前までずっと考え続け、やっと辿り着いた結論は、ツヨシの計画にぴったり当てはまっていた。ツヨシの考えは、ずっと前にここに達していたんだ。カズキはそう思った。

  カズキが気付いたことは、小さな死が人を不幸にする、ということだった。小さな死があるから、人は悲しむ。そうじゃない。戦争を見ろ。ヒトラーを見ろ。大きな死が大切なんだ。小さな死がなければ人生は楽しい。人は死ぬ、それは悲しい。病院のベッドで。でも、それは小さな死だからだ。それがなければ人生は楽しい。ヒトラーが死んだ時、彼の周りにはたくさんの死体があった。ロシアだかソ連が殺しに来たからだ。ヒトラーは他にも殺してた。大きな死だ。あれがあったし、自分の時も大きな死があったから、ヒトラーは不幸じゃなかったはずだ。一生を終える時、そこで大きな死が待っていてくれれば、不幸になることはない、幸せに、向こう側へ行ける。

  みんなも同じことだ。だったら、リョウタも、ナナも、アミも。ケンジはムカつくけど、でもかまわない。

  ツヨシは言っていた。明日はヒトラーの誕生日だ。これはきっと、偶然じゃない。

  カズキはゆっくり目を閉じた。自分のいままでの人生を思い出した。涙があふれた。苦しみは終わりだった。向こう側には幸福が待っていた。それから夢を見た。

  高速道路がずっと先まで伸びていた。終わりが見えなかった。道はひたすら真っ直ぐだった。陽の光が反射していた。


  カズキは目を覚ました。もう八時を過ぎていた。急いで着替えると、鏡越しに自分の顔が見えた。大きな鼻が、にきびに覆われていた。
  
  また別のができてる。
  
  だけど、もう構わない。


  カズキはツヨシと待ち合わせて、学校に向かった。迷彩の服は首もとでチクチクとこすれた。手に持ったバッグが重たかった。
  
  カズキは校門に向かいながら思った。自分が高速道路の先を目指しているみたいだ。このまま行ったら、その先に辿り着くんじゃないか。
  
  カズキは門を通った。何人かと目が合った。窓の外で日が出ていた。
今日は暑くなるだろう。

  カズキはそう思った。カズキは幸福だった。


  終わり。

 
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  カズキの名前はDylan Kleboldと言った。ツヨシの名前はEric Harrisと言った。二人は1999年4月20日、アメリカ合衆国コロラド州のコロンバイン高校において、銃乱射事件を起こした。二人は教員一名、学生十二名を殺し、二十四人の重軽傷者を出したあと、図書館に入って自殺した。
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Author:FC2USER586252FFA
都内某W稲D大学三年生 
(ジャーナリズム専攻)

好きなもの:ヘミングウェイ
嫌いなもの:なし

略歴:T県の田舎町に生まれる。親は離婚。大学進学で上京。アメリカの新聞社で就労経験。

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